電気炉の稼働時には3,000~7,000℃のアーク熱が発生します。一般的なゴミ焼却炉の平均温度が800℃であるのに対し、この“超高温”を活用すれば、廃棄物を安全・確実に溶かし、完全に無害化して処理することができます。リサイクル、省エネ、環境保全などの取り組みを推し進めるうえで、この電気炉の特性をもっと役立てたい、との発想から、当社グループがパイオニアとして約30年前から取り組んでいるのが、環境リサイクル事業です。電気炉の操業技術を活かして廃棄物を無害化処理すると同時に、鉄資源を鉄鋼製品の一部としてリサイクルします。増え続ける廃棄物を適切に処理し、製品を生み出す資源循環は、私たちが企業市民として果たすべき重要な使命と考えています。
注射針や手術用メスなど医療廃棄物の処理からスタートした環境リサイクル事業は、時代とともに拡大するニーズを映し、徐々に処理品目を増やし、今では重要な事業の柱の一つとなっています。近年では炭素繊維 (CFRP)の処理を安定的に行うため、破砕機を導入(山口事業所)したほか、フロンガスの破壊処理やガス化溶融炉による廃棄物処理と燃料ガスの製造、中和処理設備を利用した廃飲料水処理など、多種多様な廃棄物の処理をトータルに提供できる事業へと深化しています。今後も、電気炉を核とした総合リサイクルシステムを通じて、日本の資源再生と環境保全に幅広く貢献していきます。
環境リサイクル事業に
取り組むきっかけとなった
医療廃棄物処理システム
「メスキュード」とは
1980年当時、使用済みの注射針が大量に不法投棄され、感染者が出たことなどが社会問題となっていました。プラスチックや電子機器など加熱滅菌に適さない素材の医療器具が増加する一方、患者に接触する部分の隔離目的で使い捨て化も進行していました。
その報道を目にした当社社員が「危険なものは電気炉を使って溶かせばいい」と発想したのがメスキュードの始まりです。それまで地方自治体が受け入れ焼却処理していたものを、民間が有償で処理するにあたっては、医療現場の理解など、多くの壁がありました。社会問題の深刻さを丁寧に説明するとともに、安心・安全な処理プロセスを開発。1988年「メスキュード事業」としてスタートを切りました。
その後1992年の廃棄物処理法改正による「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」制定を受けて、メスキュードは一気に広まることとなりました。
現在は安全で持続性の高い処理方法として認知され、多くのお客様の支持を頂いております。
病院等医療機関から排出される使用済みの注射針や注射筒、メスなどの廃棄物は、感染リスクを持つものもあり、特別な処理が必要となる場合があります。そのため従来は、医療現場で一般ごみとは区別して管理し、注射針の取り外しや薬剤容器・医療器材の選別といった危険な作業を行っていました。
当社が開発した「メスキュードシステム(特許取得)」では、高温の熱を発生する電気炉を活かして医療廃棄物を容器ごと溶融処理。廃棄物の回収から処理まで、人が廃棄物に直接触らずに処理できるよう、容器は磁石で吸着できる鉄製です。医療現場とのコミュニケーションを通じて、4種類のサイズの容器を準備し、容器のふたをペダルで静かに開け閉めできるスタンドも開発するなど、医療従事者や患者の方々の衛生環境に配慮した改良を重ねました。全国の医療機関に設置した専用容器は、提携代理店を通じて回収し、電気炉で安全・確実に無害化溶融処理を行っています。
また、2002年には「メスキュード医療安全基金」を設立。売上の一部を、厚生労働省などを通じて様々な団体に寄付しています。
鉄スクラップとともに電気炉へ