当社グループは、2021年度より、2023年度を最終年度とする中期経営計画「NeXuS 2023」(以下、「前中期計画」といいます。)において、「資源循環型社会の実現に貢献するエッセンシャル・カンパニーになる」という長期シナリオを掲げ、「世界3極体制の確立」を目指し国内鉄鋼事業、海外鉄鋼事業、環境リサイクル事業等の強化に努めてきました。
定量面については、最終年度の製品出荷量400万トン、売上高2,900億円、経常利益180億円などを目標に成長戦略に取り組んできました。製品出荷量は未達となったものの、最終年度に売上高3,210億円、経常利益210億円を計上し目標を上回ることができました。これには国内鉄鋼事業の大幅な利益計上が寄与しました。またコロナ禍ではありましたが、重点施策については概ね進めることができたと考えております。一方で海外鉄鋼事業は、2022年後半以降、想定外のベトナム不動産不況の影響により同国事業の業績が大幅に悪化したことなどから、安定的な収益構造の確立に課題が残りました。また、国内外の工場で事故が発生したことから、安全・安定操業にも課題が残ったと総括しています。
定性面においては、「NeXuS:つなぐ」をキーワードに「3つのつなぐ力の強化」を掲げ、「グループ内をつなぐ力」、「外部とつなぐ力」、「次代につなぐ力」の強化を目指し取り組みを進めました。グループ間連携の強化、大学等との共同研究、人財開発室による新たな研修制度の構築などを推進し、一部では効果も見え始めていますが、これらは息の長い取り組みでもあり、未だ課題は残っていると認識しています。引き続き「NeXuS:つなぐ」の下、さらなる「グループ総合力の強化」「外部との連携強化」「無形資産など見えざる価値の向上」を推し進めます。
- 「グループ内をつなぐ力」▶ グループ総合力の強化
- 「外部とつなぐ力」 ▶ 外部との連携強化
- 「次代につなぐ力」 ▶ 見えざる価値の向上
このように、前中期計画は、引き続き取り組むべき課題を残しましたが、全体としては相応の成果を上げることができたと総括しています。
新型コロナウイルスの世界的な蔓延が収束する中、ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢など、世界的に地政学リスクやカントリーリスクが高まっており、また気候変動に対する企業の社会的責任としての取り組みにも人々の関心が集まっています。さらに、国内では高齢化社会から人口減少社会に突入し、労働力不足が想定されます。加えて、インフレ時代の到来により物価は当面の間は上昇傾向が継続すると考えられます。一方、IT技術は進化が続き、生成AIなどDXの取り組みが加速すると考えられます。
事業環境については、世界の鉄鋼需要は、アジア諸国をはじめとする新興国のインフラ投資による建設需要拡大などにより、中長期的には伸長すると予想されています。一方、わが国の建設用鋼材の需要については、企業向けの非住宅投資や公共土木投資は底堅いものの、人口減少による住宅投資などの減少によって、中長期的には縮小に向かうと予想されています。
nexus:つながり・連携
本中期計画のタイトルに用いているnexusは、「つながり・連携」という意であり、下の3つの意味を持たせています。
①グループ内をつなぐ力
国内外の拠点間、各拠点と本社などがより一層連携し、グループ総合力を強化する
②外部とつなぐ力
他社との連携や共同研究、産学連携により技術の飛躍を目指す
③次代につなぐ力
「100年企業」実現のため、企業イメージやブランド、社員の意識、組織風土など企業の「見えざる価値」を向上させる
前中期計画の振り返りおよび外部環境などを踏まえ、当社グループでは、2026年度を最終年度とする新中期経営計画「NeXuSⅡ 2026」(以下、「本中期計画」といいます。)を策定しました。
本中期計画では、以下の6点を重点方針として取り組みます。
1. 「海外鉄鋼事業」:北米事業の強化とベトナム事業の再構築
当社グループの成長戦略は、強みである国内鉄鋼事業におけるコスト競争力と営業力を武器に、成長するグローバル市場への横展開を図ることと考え、「グローカル・ニッチ戦略」のもと、「世界3極体制の確立」に向けて取り組みを進めています。しかしながら、足元の海外鉄鋼事業の業績は、特にベトナムの事業環境悪化に伴い赤字に陥っており、世界3極体制の再構築が最優先課題と認識しています。そこで海外鉄鋼事業については、すでに大型投資が一巡したベトナム事業から北米事業に投資戦略をウエイトシフトすることとします。ベトナム事業については、北部では、すでに建設中の新圧延ラインの稼働開始(製鋼・圧延生産一貫体制の完成)によってコスト競争力を強化、また南部では、生産量を抑えた低在庫操業で業績の変動リスクを軽減させることにより、質の強化と事業の再構築を図ります。一方、北米事業については、米国・カナダともに堅調な需要を捕捉し拡販するため、約600億円の投資を行います。米国における設備老朽化への対応を主眼に、M&Aも視野に、コスト競争力の強化と生産性向上、生産量・出荷量の増加により、収益の拡大を目指します。
2. 「国内鉄鋼事業」:国内4事業所体制による連携強化と質的向上
2024年3月に連結子会社の関東スチール株式会社を吸収合併、「共英製鋼株式会社関東事業所」としました。国内4事業所体制になったことで、さらなる連携強化による販売体制の効率化、製品の安定的な供給体制の構築を図るとともに、最大需要地である「関東圏」における当社の存在感を高めてまいります。さらに原材料である鉄スクラップ調達の多様化などの川上戦略や加工品など付加価値製品の強化を図る川下戦略、デリバリー機能の強化など質的向上に資する施策を講じ、安定した収益確保を図ります。
3. 環境リサイクル事業および鉄鋼周辺事業
環境リサイクル事業については、これまで35年にわたり鉄づくりと廃棄物処理を一体として行ってきた当社の強みを改めて訴求し、アフターコロナの反動で落ち込んでいる廃棄物処理量の改善を図ります。特に電炉溶融処理の先駆者としての処理実績と保有する多くの許認可を背景に、アスベスト処理など社会課題となっている難処理廃棄物の取り扱い強化に努めます。また資源循環型社会の実現に向けたサーキュラーエコノミーへの取り組みも強化します。
鉄鋼周辺事業については、国内とベトナムで展開する鋳物事業の安定した成長を図ります。
4. 無形資産投資に向けた取り組み強化
財務資本や製造資本だけでなく「見えざる価値」である「人的資本」や「ブランド価値」など無形資産に対する投資を積極的に行い、企業価値の向上に努めます。人的資本投資については、「企業は人なり」の原点に立ち返り、従業員に対し「物質的メリット」「自己実現」「連帯感」「企業理念への共感」が感じられるような施策を実施し、エンゲージメントを高め「3つのつなぐ力」を強化します。具体的には、事務所・厚生棟の新設、省人化・安全対策投資の推進、多様な人材の確保、研修制度の充実、トレーニー制度の活性化、健康経営の促進などに取り組みます。ブランド価値については、「電炉を中核に鉄鋼事業と環境リサイクル事業を同時に行う資源循環型事業」である当社のビジネスモデルをブランディングし、幅広くステークホルダーの皆様への浸透を図り、企業価値向上につなげたいと考えます。
5. 「100年企業」を目指したESG経営
「環境」に関する取り組みとして、「2050年のカーボンニュートラル」に向け、2030年度に国内生産拠点のCO2排出量を2013年度対比50%削減します。具体的方策としては、引き続き、燃料転換や太陽光パネル設置、再エネ電力利用の検討など、CO2削減への取り組みを推し進めます。また、鉄鋼副産物の資源循環に向けた取り組みも継続します。
「社会」に関する取り組みとして、「メスキュード医療安全基金」をはじめとする寄付活動や山口事業所近郊で行っているオリーブ植樹活動など地域社会に貢献する活動を推進し、それらの活動に対し連結当期純利益の0.5%程度を支出します。
「企業統治」に関する取り組みとしては、取締役会の多様性確保やリスクマネジメント委員会のさらなる充実によるリスク管理体制の強化、情報セキュリティ体制の強化などに取り組みます。
6. 経営基盤の強化
前中期計画中に発生した事故への対応として、安全・安定操業に向けた取り組みを強化します。具体的にはエンジニアリング部門を設置し、国内外の工場の定期診断によるトラブル防止や若手技術者への教育など技術伝承を進めます。
また、前中期計画では営業業務改革として、業務フローの標準化やシステム化など営業面の基盤強化を図ってきましたが、本中期計画では、生産拠点のスマートファクトリー化も進展させ、製造、営業、管理の全方位でデータやデジタル技術を活用した「ものづくり起点のDX」に取り組みます。
加えて、積極的な施策を実行するための投資計画を支えるため、資金調達の多様化を検討、財務規律を堅持し現状の格付水準を維持します。
当社の2024年3月期のROEは、7.4%と前中期計画の目標である7.0%以上を達成し、また株主資本コスト(7%程度)も上回っています。しかしベトナムの事業環境悪化に伴う海外鉄鋼事業の業績悪化もあり、結果として、現状では市場からの評価は十分に得られておらず、PBR(株価純資産倍率)は1.0倍を下回る低水準で推移しています。
こうした状況に対し当社は、ベトナム事業を含む海外鉄鋼事業の再構築を最優先課題とし、上記重点方針にある「事業の成長に向けた取り組み」を一つひとつ実現することで、ROE(株主資本利益率)8.0%以上を達成し、安定した収益基盤を確立します。併せて、株主還元を強化するため配当方針を見直し、配当性向を従来の「25~30%程度」から「30~35%程度」に引き上げます。また「成長を支える基盤強化」の取り組みである人的資本やブランディングなどの無形資産投資も積極的に行い、さらにIR活動の強化を図ることなどを通じ、PBRの改善に取り組んでまいります。その結果が、「100年企業」に向けた持続可能な経営、そして「資源循環型社会の実現に貢献するエッセンシャル・カンパニーになる」ことの実現につながると考えます。
【財務KPI】
売上高 |
3,800億円 |
経常利益 |
250億円 |
出荷量 |
400万トン(国内160万トン・海外240万トン) |
ROE |
8.0%以上 |
自己資本比率 |
50%以上 |
ネットDEレシオ |
0.5倍以下 |
配当性向 |
30~35%程度 |
投資計画 |
1,100億円/3ヶ年 |
【非財務KPI】
CO₂排出量 |
50%削減 (2013年度対比2030年度目標:国内生産4拠点) |
女性総合職比率 |
15%以上(単体) |
女性管理職比率 |
3.0%以上(単体) |
教育研修費/人 |
15万円(単体) ※2022年度の1.5倍 |
社会貢献活動支出額 |
連結当期純利益の0.5%程度 |
- 中期経営計画 リリース (2024年4月30日発表) (363KB)
- 中期経営計画 説明資料 (3,046KB)