当社の歴史とそれを背景としたビジョンについて

 社会にとってなくてはならないエッセンシャル・カンパニーを目指す

 

 当社は1947年、線材を作る伸鉄メーカーとして事業を開始しました。その原点は、実質的創業者高島浩一の、戦後焦土と化した日本の復興に力を尽くしたいという強い思いにあります。また、事業が軌道に乗り始めると、1960年代から、いち早くヨーロッパやアジア、アメリカなど世界各国で海外事業を進めていきます。その背景には、当時戦争犯罪人という不名誉な評判が残っていた日本人の誠実で勤勉な本当の姿を世界に示したいとの強い思いがあったからです。
 さらに1970年代、日本が高度成長を成し遂げる一方、「水俣病」や「四日市ぜんそく」など公害問題が社会問題化すると、高島浩一は「我々は地球の豊かな包容力に甘えすぎていたのではないか」と語り、「企業の成長と地球環境との調和」との考えを打ち出します。その考えが工場の完全クローズド化や、1988年の医療廃棄物処理「メスキュード」事業のスタートにつながります。
 このように、当社の創業者は常に戦後の日本の復興と成長の歴史を見据え、時代を先取りした経営方針を打ち立て、「この会社は何のためにあるのか、どうあるべきか」を折に触れ社員に語り、スピリット・オブ・チャレンジの精神で事業を推進してきました。これが、当社の成長につながる活力となりました。
 経済学者岩井克人氏の著書『会社はだれのものか』などにあるように、高島浩一も自らの利益だけでなく、日本や世界の人々のために何ができるのかを考え、「鉄づくりを通じて社会に貢献する」という経営理念のもと、株主だけでなく、地域社会やすべてのステークホルダーに貢献できる企業を目指してきました。
 21世紀になり、SDGs、ESGや資源循環、ダイバーシティ&インクルージョンなど経営を巡る価値観の転換が進んできました。当然ながら、企業としての最大の経営目標は「収益の極大化」でありますが、私自身も創業者の理念を引き継ぎ、こうした時代の価値観の変化に対応して、当社が社会の中で重要な役割を担う「社会の一員」となるべく、前中計「NeXuS 2023」策定時より「資源循環型社会の実現に貢献する、真のエッセンシャル・カンパニーになろう」と話しています。

当社を取り巻く環境について

 日本の社会はいよいよ高齢化社会から人口減少社会に突入

 

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、2023年末には中東でも戦火が起こり、さらには台湾有事など、世界的に地政学的リスクが高まっています。一方、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の動きは、グローバル化や私たちの働き方に大きな影響を与えています。現在もチャットGPTなど最新の技術が加わり、その動きはますます加速しています。また、世界的にインフレが進み、貧富の格差が拡大し、治安の悪化が懸念される状況にあります。さらに、近年の度重なる大規模な自然災害の発生は、「地球温暖化」に対する人々の危機感を高め、企業の社会的責任として「脱炭素社会」「エネルギーシフト」といった持続可能な社会の実現に向けた取り組みにこれまで以上に関心が強まっています。
 そして、日本の社会はいよいよ高齢化社会から人口減少社会に突入し、生産年齢人口の減少による労働力不足、需要の減退が現実化する時代が到来します。また、今後賃金と物価の好循環が実現すれば、金利のある世界に突入することになります。長らく金利のない世界にいた私たちは、今一度、物を持つことはコストがかかるという意識を取り戻す必要があります。

中期経営計画「NeXuS 2023」の振り返り

 利益目標は達成できたものの、反省すべき点が多かった3年間と総括

 

 2024年3月期の業績は、前期対比で減収増益でした。2021年度に策定した中期経営計画「NeXuS 2023」の最終年度でもありましたが、売上高など計数目標については概ね達成しました。特に収益面では、経常利益において目標の180億円を上回る210億円を計上するなど、相応の業績を上げました。しかし、グループ全体の製品出荷量400万トン体制の構築については大幅に未達であったほか、「質の強化」など定性的な成果においても反省すべき点が多い3年間でした。100点満点で70点と総括しています。
 特に、最も重要視していた海外鉄鋼事業の強化については、初年度こそ50億円近い収益を計上したものの、最終年度はベトナム事業を中心に大幅な赤字計上を余儀なくされました。ベトナム事業の悪化は、政治的な変化や金融不動産政策の変更といった外的要因によるところが大きかったとはいえ、もっと機動的に情報を捕まえて変化に対応できていれば、損失をミニマイズすることも可能だったと分析しています。
 また、メーカーとして一番大切な、安全安定操業についても、国内外で溶鋼漏れ火災を起こすなど、製造部門における保守管理体制、現場の知の伝承、教育研修体制の課題を強く認識させられる事案が発生しました。事故を完全に無くすことは難しいかもしれませんが、目指すべきは常にゼロです。その中で、人の持っているノウハウや知識を漏れがないように引き継いでいくためには、“隙間隙間を埋めていく”ような作業が必要だと考えています。そのためには、アナログの良さも活かして、「ワンチーム」で、互いに注意し合ったり、自分たちの足りないものを学び合ったりできる仕組みを作っていかなければなりません。一方で、自動化・省力化のためのロボットやAI、センサーの導入など、スマートファクトリー化の取り組みもしっかりと進めていく、その両面での対策が必要だと認識しています。

新中期経営計画「NeXuSⅡ 2026」について

 「NeXuS 2023」で徹底できていなかった項目を洗い出し、再度徹底強化

 

 2024年度からスタートした中期経営計画「NeXuSⅡ 2026」は、「NeXuS 2023」に続き、社会経済情勢の変化に対応し、併せて企業経営に求められる社会的要請にも応えるための、今後の私たちの道標として策定しています。新中計の骨子は、「NeXuS 2023」の基本方針を堅持しつつ、変化の激しい世界経済と社会の大きな構造変化の中、当社の取るべき戦略と進むべき方向性について、改めて基本的な方向性を明示したものです。当社の強み・弱みを再認識し、市場の変化や新しい時代に対応した、当社グループの事業のあるべき姿を検討しました。建設用鋼材のトップメーカーとしての強みを継続していくため、「地域分散経営に徹する現場主義」「最善ではなく最適解を目指すオプティマム戦略」「グローカル・ニッチ戦略をやり遂げていくこと」に重点を置くこととし、もう一つの強みである環境リサイクル事業においては「量ではなく、質の高い、信頼性に基づいた事業展開を行うこと」が必要であるとしました。一方で、道半ばとなっているグループ連携、設備のリニューアル、人材育成などについては、謙虚に反省し、弱みを強みに変える施策を講じていきます。
 従って、新中計においては、前中計で徹底できていなかった項目を洗い出して強化・徹底するとともに、私たちの強みを強め、弱みをカバーする施策を加えています。
 以上を踏まえ、「NeXuSⅡ 2026」では、6つのポイント(下記参照)を意識した経営に取り組みます。事業面での成長戦略における大きなポイントは、海外鉄鋼事業におけるベトナムから北米へのウエイトシフトです。先にお話しした通り、前中計では、ベトナム事業の不振が、海外鉄鋼事業の収益化が遅れる大きな要因となりました。ベトナムにおいては、製造方法の違うミニ高炉メーカーなどとのコスト差の克服と、改革開放路線から規律重視の経済運営に変化したベトナム政府の政策変更への柔軟な対応という、2つの根本的な課題があります。競合とのコスト差克服については、北部拠点で進めている大型投資により、コスト競争力を大幅に改善します。南部拠点では、これまでの中心であった住宅向けに加え、プロジェクト向け販売も増やしつつ、操業をピーク時の6割程度に抑えて、市況の変化で生ずる在庫評価損の発生といった連結業績への影響を最小化することとしました。一方で、中長期的に成長が見込め、ベトナムに比べて景気変動リスクの少ない北米において、米国拠点の老朽化対策を主眼とする大型投資を実施し、生産性を高めて北米事業の拡大を図ります。
 成長を支える基盤の強化に向けた戦略については、特に無形資産の強化に注力します。一つはブランド戦略、もう一つは前中計に続き人的資本の強化です。1988年に当社が開発しスタートした医療廃棄物処理事業「メスキュード」は、鉄鋼製品以外の収益源の確保を企図して事業化したものですが、医療廃棄物を電気炉操業時の超高温で無害化処理すると同時に、廃棄物に含まれる鉄分を当社の鉄鋼製品の原材料の一部とすることで、鉄資源の循環の一助にもなっています。「地球環境との調和」といった理想を高く掲げても、利益にならない活動は、経営として成り立ちません。この厳しい現実は変わりませんが、社会にとってエシカルな事業者が評価される時代に変化しつつあることを踏まえ、鉄づくりと医療廃棄物や産業廃棄物処理を一体として行ってきた当社の歴史を改めて訴求し、事業の独自性をブランド化することとしました。具体的には、医療廃棄物を一定量無害化処理した鉄鋼製品を「エシカルスチール」として、本年5月に販売を開始しています。
 人的資本の強化については、引き続き、社員が健康に活き活きと働けるよう、職場環境や制度の整備を進めていきます。「NeXuS 2023」の取り組みでは健康経営優良法人の認定を受けることができましたが、今後も人事制度や福利厚生制度、各種研修制度のさらなるレベルアップに取り組み、そのために必要な投資や体制づくりも適切に行います。併せて、社員がこの会社に勤めることの経済的メリットも必要なので、しっかりと利益を上げ、物価上昇率を上回るベースアップを継続的に続けたいと考えています。その上で、社員が仲間や外部とつながりながら成長し、意識を高めていけるような仕組みを作り上げ、健全なチャレンジ精神や営業力を備えた組織風土を醸成していきたいと考えています。
 また、カーボンニュートラルへの取り組みについては、前中計策定時に「2030年度CO²排出量を2013年度対比50%削減」の目標を掲げ、TCFD提言に基づく情報開示やCDPの回答などを行うとともに、社内体制整備を進めてきました。各事業所の燃料転換やエネルギー原単位の削減、太陽光発電設備の拡大も図っています。また、山口県内の遊休地を活用したオリーブ植樹活動は、資源循環型社会の実現に向けて社員が意識を変えていく大きな力となっています。新中計においても、こうした取り組みを継続するとともに、CO²削減のみならずサーキュラーエコノミー社会の実現を目指して、「サステナブルテクノロジー研究センター」を中心に、資源の有効活用、電炉製鋼スラグの有効活用の用途拡大などを進めます。

 

「NeXuSⅡ 2026」 6つのポイント
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「NeXuSⅡ 2026」 6つのポイント

資本効率を意識した経営について

 海外事業収益の改善に加え、「見えざる価値」の拡充も含め企業価値の向上を図る

 

 2024年8月現在、当社のPBRは1倍を割っており、市場からの評価を十分に得られていない状況です。当社の資本コストは7%程度であり、ROEの目標は新中計では8%としていますが、中長期的には10%を超える水準を目指すべきと考えています。新中計の施策を着実に実行して目標を達成していくことで利益水準を引き上げ、安定的に250億円の経常利益が計上できる体制の実現を目指します。そのためには、資本効率を上げていくことが重要だと考えており、ベトナムから北米へのウエイトシフトはその一環です。収益の分配に関しては、成長投資や人的資本投資などとのバランスをとりながら、配当性向の目途を従来の「30%程度」から「30%~35%」に引き上げ、株主還元の強化を図ります。

 同時に、企業における競争力の源泉である「見えざる価値」の拡充も重要です。ブランド戦略や人的資本の強化などの取り組みに加え、スラグ・ダストの有効活用、再資源化を目指した大学との連携など、新しいものを生み出す取り組みを通じて、将来に対する可能性に期待し、社員が誇りを持って働ける企業にしていくことが、企業価値の向上につながるものと考えています。

ステークホルダーへのメッセージ

 「我々も市民社会の一員である」という考え方を意識し、「強くしなやかに」逞しく成長できる企業法人に

 

 私が社会人になった翌年の1979年、高度成長の中で取り残された身体障がい者を巡る当時の社会の厳しい現実を描いたNHKドラマ『男たちの旅路』シリーズ第4部『車輪の一歩』を見て、その内容に衝撃を受けました。その後社会は徐々に変わってバリアフリー化が進み、現在ではインクルージョンやノーマライゼーションという考え方も広がり、まだまだ課題は残ってはいるものの、身体障がい者の方々も以前に比べ暮らしやすい環境が整備されてきています。こうした社会の変化を見ると、私は、世の中の求めているものは時代によって変わり、難しい問題であっても、人が意識して変われば社会は変わるのだと実感しています。
 もとより、私たち株式会社の目的は事業を通じて利益を上げ続けていくことであり、そのためにあらゆる努力を重ねて「収益の極大化」を実現していかなければなりません。しかし一方で、21世紀になり、世界的にSDGsの考え方が拡がり、厳しい競争社会の中にあっても、「他の人たちや地球環境に関心を持つ」ことが求められてきています。
 私は、これからの時代を生き抜いていくには、「私たちも市民社会の一員である」法人であるという自覚をもって、少し心の余裕を持ち、企業を逞しく成長させていくことが大切だと、強く考えています。私をはじめ社員一人一人が厳しい現実を前にしても、皆が社会に必要とされる企業とは何かと考えて行動しながら「したた強かにしなやかに」利益を上げ続けることのできる「真のエッセンシャル・カンパニー」にしていきたいと考えています。