長期ビジョン・あるべき姿について

 創業者の思いと当社の存在意義

 

 当社は鉄鋼会社として、地球の重量の3分の1を占める鉄をリサイクルしながら有効活用することで、社会の発展と地球環境の調和を実現することを目指しています。社会が資源循環型へと進む中で、鉄のリサイクル事業はますます重要になっていきます。当社には、1947年の創立以来76年の歴史の中で鍛えられてきた三つのキーワードがあります。一つ目は実質的な創業者、高島浩一の「鉄づくりを通じて日本の復興・再生に貢献する」という創業当時からの企業の目的です。二つ目は、事業開始当初から創業者が心の中に秘めていた「世界の人たちに日本人の本当の姿を見せたい」という思いです。そこには戦争を経験し、戦前戦後で価値観が180度転換した時代を生きた当時の若者の苦悩があり、この思いは、電炉事業に進出した1960年以降、海外にいち早く進出し、日本人本来の誠実さ勤勉さを世界の人に示したいと、技術指導にも力を入れる形で実現していきます。三つ目は「地球環境との調和」です。1970年代から80年代にかけて深刻化した日本の公害を前に、「我々は地球の豊かな包容力に甘えすぎていたのではないか」という反省のもと、電炉メーカーとして、鉄づくりを通じて極めてきた技術を地球環境との調和に活かしたいと決意を新たにしました。

 創業者が抱いたこの三つの思いが柱となり、今日までの当社の成長を支えてきました。私は、21世紀の共英製鋼グループとして、この三つの柱を生かしながら「資源循環型社会の実現に貢献するエッセンシャルカンパニー」を目指し、実現に向けてすべきことを一つ一つ具体化していくことが我々の進むべき道であり務めだと思っています。

事業環境認識および想定されるリスクと機会

 国内の人口減少と グリーンフレーションが進む社会

 

 私が今、非常に危機感を持っている問題が二つあります。一つは気候変動、もう一つは日本における人口動態の変化です。

 2015年7月、ペルシャ湾に面したイランのバンダル・マフシャフル市で体感温度が74℃に達したというニュースは衝撃的でした。地球の温度は確実に上昇しており、世界各地で気候変動による影響が出ています。持続可能な社会の実現に向けた、企業に対する社会の要請は一層高まってきており、規制強化やルール変更も進むと考えられる中、企業はその役割を果たしていかねばなりません。

 そして、日本においては、人口減少社会が到来しています。人口減少が進めば実質GDP成長率も鈍化し、鉄鋼需要はさらに落ち込むことが予想されます。一方で、生産現場における人材不足はますます深刻化していきます。ご承知の通り、日本は2008年をピークに人口減少に転じましたが、シルバー世代や女性の活躍推進により、就業者数は一定程度確保されていました。しかし、2025年以降、生産年齢人口は劇的に減り、有為な人材の確保が今まで以上に難しくなります。

 この二つの大きな問題に対応した経営戦略を策定し、具体化していかなければならないと考えています。

 足元の経営環境については、米中対立やロシアのウクライナ侵攻により経済圏が分断され、当面はブロック経済的な時代が続くと考えられます。さらに、脱炭素社会の実現に向けた、いわゆる『グリーンフレ―ション』が進む時代が到来し、エネルギーコストばかりでなく、副資材、合金鉄等の価格が上昇しています。加えて、高炉の生産活動が一部電炉へシフトされる流れにより、主原料となる鉄スクラップの需給バランスが変化しつつあります。当社は多様な鉄スクラップから鉄鋼製品をつくるノウハウがあるため、使用する鉄スクラップの品質に制限が多い高炉メーカーなどに比べて調達不足に陥るリスクは少ないと言えますが、価格上昇の影響は避けられないでしょう。

 社会の在り方も大きく変化しています。多様な価値観を受け入れ、差別のない社会の実現の重要性が叫ばれる一方、IT技術の加速度的進展により、最新テクノロジーを活用できる者と取り残されてしまう者の格差が広がっています。こうした現在の資本主義が抱える問題にも目を向けつつ、様々な変化をリスクと考えるだけでなくチャンスとも捉えて経営に取り組んでいかなければなりません。

事業環境を踏まえた戦略と対策について

 世界3極体制を進化させ安定的な経常利益を生み出す

 

 当社グループの主力である鉄筋は、ビルや道路などの基礎工事に用いられる必需品であり、国内外で今後も一定の需要が見込まれます。汎用品の宿命として、品質面での圧倒的な差別化は難しく、価格と利便性の競争を余儀なくされるものの、安価な重量物であることから海外メーカーによる国内市場への参入は難しいという側面があります。さらに電炉は鉄の生産量1トン当たりのCO²排出量が相対的に低く、優位性がある事業と言えます。

 当社の戦略としては、第一に、需要があり、原料調達しやすい場所に工場を持ち、地産地消ビジネスを貫くこと。第二に、鉄筋づくりを極めること。設備は、過剰なものを取り除き、シンプルでオプティマム(最適)なスタイルを徹底し、様々な外部環境の変化に対応できる製造技術、操業技術を常に高めていくこと。第三に、地域ごとに商慣習や需給環境が違うことから、迅速な判断ができるよう現場に権限を委ねる自律分散型経営で現場主義を貫くこと。こうした考えの下、日本、ベトナム、北米で地産地消ビジネスを展開する世界3極体制でリスクを分散し、経営の安定化を図っています。

 しかし、世界3極体制は、現時点ではまだ十分な成果を上げ切れていません。後にも述べますが、国内外揃って安定的な利益を上げるまでには至っておらず、鉄スクラップの市況と各国の鉄鋼需要、地政学的リスクやカントリーリスクに注意を払いながら海外でビジネスを展開していく難しさを痛感しています。海外での収益安定化には、一定の規模と数量の確保が必要と考えており、できるだけ早く、国内外合計で400万トンの製品出荷体制を確立させたいと考えています。そうすれば安定的に経常利益200億円程度を計上できる会社になります。経常利益を200億円とすれば、配当や保守管理・更新投資を差し引いても、100億円程度は将来に向けた戦略投資に振り向けることができます。さらに利益を上げて戦略投資の水準を引き上げることにより、従業員の給与やボーナス、株主還元の水準を上げ、研究開発やブランド価値創造など無形資産への投資を行い、世界500万トン体制に向けた、より好循環な経営ができると考えています。

人的資本への投資

 待遇改善や環境整備による人材確保、育成を強化

 

 こうした戦略を実現していくためには、それを担う人材の確保、育成が重要です。社内の人材を育てると同時に、中途採用も含めより良い人材を集めていかねばなりません。人的資本強化のため、現中計、次期中計期間中に総額80~100億円規模の投資を行っていきます。有為な人材が集まる会社にするために、必要なポイントは四つあると考えています。一つ目は、物質的なメリットが十分に整っていること。ベースアップや賞与の引き上げはもちろん、事務所や厚生施設の新設・リニューアル、生産設備の自動化・ロボット化など労働環境の充実を進めています。二つ目は、働く人たちの能力開発、成長の機会があること。「この会社にいれば成長できる」と思える職場にしなければと思っています。研修体制の充実やメンター制度の導入などを進めています。三つ目は、ともに働く人たちと、チームとしてつながりや連帯感を感じられる職場環境であること。これは、我々経営幹部の役割が大きいと考えています。各部署で、そのような雰囲気を持った組織にするための工夫をしていくことが必要です。そして四つ目は、会社の存在意義、事業の目的が明確であること。鉄づくりや環境リサイクル事業を通じて社会に貢献するという当社の方向性をしっかりと伝え、従業員に自身の仕事に対する誇りとやりがいを持ってほしいと思っています。幹部社員との面談やビデオメッセージ、各製造拠点の朝礼など、さまざまな機会を捉えて話をしていますが、コロナ禍で実施できなかったオフサイトミーティングも積極的に実施したいと考えています。

中期経営計画「NeXuS 2023」進捗と今後について

 2022年度は過去最高の売り上げに

 

 2022年度は増収増益となり、計画を上回って順調に推移しました。世界的なインフレ傾向により鉄スクラップや副資材価格、エネルギーコストが上昇しましたが、販売価格も上昇したことから2022年度の売上高は過去最高となり、147億円の経常利益を上げることができました。しかしその内容は、中期経営計画で掲げた姿とは異なり、国内鉄鋼事業と環境リサイクル事業が好調に推移した半面、海外鉄鋼事業が赤字というものでした。特にベトナムでは、政府による利上げや不動産業向け貸出規制の強化により、業績が悪化しました。事業環境は当面の間厳しいと予想されます。しかし、今後も成長が見込める市場ですので、戦略を組み直して早期の黒字化を実現したいと考えています。一方、北米事業は、堅調な需要に支えられて業績は好調でしたが、2022年度の実施を目指していたカナダでの設備能力増強投資は、建設費高騰のため計画内容を見直すこととしました。次期中期経営計画期間に実行したいと考えています。

 国内では、4年越しで進めていた営業業務改革の取り組み「プロジェクトONE」が、計画通り昨年10月にカットオーバーし、ウェブ受注システム「テツクル」を含む営業業務基幹システムの運用を開始しました。社内の業務標準化ができたことで今後のDX化やAIの活用が進めやすくなりました。「つなぐ力」をより強くという点についても、様々な取り組みが進行しています。昨年、山口事業所の製鋼工場で火災事故が発生し、約1カ月の操業停止を余儀なくされましたが、国内外の拠点が連携し、影響を最小限に留めることができました。各拠点、グループ各社との情報交換、対話、連携は従来以上に進んできています。

 「NeXuS 2023」の最終年度である2023年度は、世界3極体制の質的向上を目指したベトナム事業の立て直しと北米事業の強化に注力し、次期中期経営計画に向けた土台を固めていきたいと考えています。

サステナビリティ経営について

 「先義後利」の精神であるべき姿へ

 

 かつて米国の経済学者ミルトン・フリードマンが「企業の社会的責任は、利益を最大化することだ」と主張し、利益の極大化が企業の目標になっていきました。その結果、環境破壊や貧困、格差といった問題が世界各地で顕在化したとも言われています。もちろん、社会的に問題のある行動や地球環境に影響を及ぼすような企業活動は、法規制等によりコントロールされています。しかしグローバルな競争においては、社会的規範や商業道徳、地球環境保全を真摯に受け止めて企業活動を行っていても、現地の法規制やルール、価値観の違いから競争劣位に陥り、企業の存続が困難になるケースも少なくないと感じています。

 では、我々はどうすればよいのでしょうか。私は、現地・現実・現物をよく見てリスクコントロールを図りつつ、経営理念に基づいた経営を突き詰めるしかないと考えています。当社の原点は、創業者が抱いた三つの思いであり、それを引き継いで「資源循環型社会の実現に貢献する」ことを目指しています。鉄スクラップから鉄づくりをすることによって、社会や顧客が望む価値ある製品・サービスを供給し、満足のいく雇用を提供し、投資家に収益をもたらし、地域社会に積極的に貢献する、そのために最善の経営をする。こうした企業活動に注力し、その結果として応分の利益を得ていく「先義後利」が本当の経営ではないかと考えています。資本主義の在り方が問われている現在、環境問題や社会問題に関して多くの物差しがあり、その実現が求められています。PBR改善も経営課題として認識しています。外部からの要請に耳を傾けながら、チームとして現場の意見を吸い上げ、短期志向に走ることなく、あるべき姿に向かって企業活動を展開していきたいと考えています。

ステークホルダーへのメッセージ

 社会的要請に応えながら 企業価値向上を図る

 

 江戸末期までの日本は、出雲地方を中心とした「たたら製鉄」で鉄器の需要を満たしていました。一方東北の北上山地は日本で唯一といわれる鉄鉱石鉱脈を擁し、砂鉄よりも純度の高い餅鉄(磁鉄鉱礫)が取れましたが、南部藩は、餅鉄を使った製鉄業を規制していました。それは、過度な鉄づくりが引き起こす農業被害から領民を守るためだったということを、最近学びました。そして、東日本大震災で壊滅的な被害を受けた気仙沼のカキの養殖を復活させた畠山重篤さんが、「三陸のカキは、鉄を含む北上山地のミネラルを豊富に含んだ広葉樹林の腐葉土が海に流れ込むことで美味しくなる」と言われていたことを思い出しました。江戸時代の人々が、寒冷地で環境との調和を図り生き抜く知恵を凝らしたことが、現代の海の豊かさにつながっていることに、大きな感銘を受けています。

 経済成長と自然との共生、生物多様性の保全は、いつの時代も克服しなければならない課題です。地球に生きる一員として、私たちができることは、目の前の課題を丁寧に解決していくことであり、当社が手掛けているスラグの新たな用途開発、オリーブ植樹などの緑化事業など、できる範囲の社会貢献を事業とともに地道に続けていくことが大切であることを再認識しました。「ゼロサム」や「オールオアナッシング」といった対立軸ではなく、一つ一つの問題を議論しながら解決していく知恵が必要であり、我々はこれからも地球環境との調和と、企業価値向上、存続していく意義の多元方程式を解きながら前に進んでいかなければならないと考えています。