■ 米国は、2022年3月以降インフレ抑制のため急速な利上げを行ってきましたが、今年後半には利下げに転じると予想されます。しかし、米国内の景気は「米国第一主義」の経済効果が持続しており、当面大きなリセッション(後退局面)はないとの予測が大方の見方となっています。
■ 不動産不況に苦しむ中国は、2023年の実質GDP成長率は前年対比5.2%となりましたが、2024年は減速すると予想されています。さらに、成長著しいグローバルサウスと呼ばれる新興国も金利高騰、為替差損、地政学的リスクの影響を受けて世界経済をけん引する力強さはないとの予想が出ています。
■【北米の鉄鋼需要】2023年の米国での鉄筋需要は、コロナ禍の影響もあり895万トン(前年比▲3.5%)と900万トンを下回るものの、インフラ投資や人口増加など旺盛な需要が期待でき、2027年には1,042万トンまで拡大するとの予想が出ています。2023年のカナダの建設用鋼材需要は、コロナ禍の影響で反落した2022年から回復し156万トン(前年比+10.2%)となりました。2024年以降も、人口増加の恩恵を受け、緩やかな成長が期待できることから2026年には162万トンになるとの予想が出ています。
■【ベトナムの鋼材需要】2023年のベトナム建設需要は前年下期から続く不動産不況により、1,003万トン(前年比▲9.5%)と大幅に減少しました。しかし、2024年上期までは影響が残るものの、次第に回復に向かい、2025年以降は大型公共投資等による需要喚起により、特に南部に比べ開発が遅れている北中部を中心に、これまでの水準である1,100万トン程度まで伸長すると予想しています。
1963年に電炉メーカーとして初めて海外進出。以来20カ国以上で工場建設や技術指導、事業進出などの形で事業を行ってきました。現在は、ベトナム(3拠点)、北米(2拠点)で展開しています。特にベトナムにはドイモイ政策が開始されて間もない1994年に進出しており、ベトナム戦争後の国土復興に貢献するとともに、“日本品質” の製品として高い信頼を得ています。現地に根を下ろして事業を行うことで、現地の雇用拡大や技術力向上に貢献しています。
【 強み 】
■ 50年以上に及ぶ海外事業の歴史と実績
■ 成長市場(ベトナム)、成熟市場(米国、カナダ)という異なるマーケットに拠点を持つことにより、リスク分散が可能
■ 現地での技術指導や設備投資を通じた当社グループの人材育成の機会が豊富
【 機会 】
■ ベトナム、北米とも需要拡大見込み
■ 地球規模のカーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーの要請による電炉事業の地位向上
■ 北米各国には当社グループが得意とする細物鉄筋の生産が可能なメーカーが少ない
【 脅威・課題 】
■ ベトナムの経済成長に伴う鉄鋼需要の拡大を見込んだ同業他社の能力増強が相次ぎ、競合環境が厳しい
■ カーボンニュートラルへの対応(各国政府の環境規制強化)
■ 市場環境の動きが激しいことや操業面の課題などにより収益が安定しにくい
■ 工場設備の老朽化対策、安全対策
当社は、2016年の米国への再々進出を契機に、日本、ベトナム、北米の世界3極体制の構築を大きな戦略としてきましたが、各国の政治経済情勢の変化に鑑み、投資戦略を北米重視に転換(ウエイトシフト)することとします。従来の世界3極体制の枠組みは変わりませんが、北米に重点を置いた戦力投入を行い、ベトナムについては北部により力点を置いた運営に努めます。
「NeXuS 2023」において、海外鉄鋼事業の業績は大幅に計画未達となり、利益の偏りが見られることから安定的な収益構造の確立が課題となりました。中期経営計画1年目は不振の国内鉄鋼事業を海外鉄鋼事業が支える形となり、「世界3
極体制」は一定程度機能しましたが、2年目以降はベトナム事業が不動産不況の煽りを受け不調に終わり、また3年目は北米事業での設備トラブルの影響もあり、海外鉄鋼事業全体が大幅な赤字に陥りました。
「NeXuSⅡ 2026」では、「世界3極体制」の再構築が最優先課題と認識し、すでに大型投資が一巡したベトナム事業から北米事業に投資戦略をウエイトシフトすることとしました。
北米事業について、ビントン・スチール社では、設備の老朽化に対応するため製鋼工場の新設および圧延工場設備の一部改造を実施することで、生産性の改善による大幅なコスト削減と生産量・出荷量の拡大を図り、収益の改善と安定化を目指します。これらの設備投資には230百万ドルを計画しています。また、現在アルタ・スチール社では、圧延設備の増強と10mm鉄筋の商業生産開始に取り組んでおり、2025年からの増産増販を目指しています。
ベトナム事業について、VKS社は、市況の変化に合わせて安定した運営ができるよう、数量を追わず財務体質の改善に努め、連結決算に与える影響を極小化します。VIS社は、2025年度に予定している新圧延ラインの垂直立上げにより、安定的に収益が上げられる会社づくりを目指すとともに、単圧ミルのKSVC社との連携を強化し、北部2社の最適生産体制を構築し、ベトナム事業における中心的役割を担う会社に進化させます。